「あなたは素敵よ。もう少し、無茶をしなければ良いのだけれど」
2023年8月31日、魚座満月。
13年ぶりの青い月夜だった。
13年前に出会ったおまえは、
今どんな顔をしているのか全く分からない。
おまえは本来の姿を隠し、
私を欺き、
私を利用し続けてきた。
おまえが私に見せてくれたものは、
私を殺して、私を踏みつけ、私を辱め、
私から全て剥ぎ取ったもので築き上げた、虚構の世界だった。
私はお前をひとつずつ解体し、
ひとつずつ解体し
ひとつずつ剥ぎ取り
一つずつ削り取っては消し
そうしてお前はようやく、本来の姿を隠しおおせなくなった。
お前が築いた虚構は多くの者を巻き込み
巻き込み
巻き込み
巻き込み
一つの大きなムーブを作った
つかの間の仮初めの偽りの出鱈目な
お前が築く世界は
理屈など無く
理屈など通じぬ
当たり前が二転三転し
気が狂い眩暈がして倒れるまで
何度でも繰り返される狂宴だった
お前と私は相容れぬもの。
お前はただの命乞い。
おまえは私の前に仁王立ち、
腕を組んで私に命を乞うたのだ。
生かしてくれなどと、頼まれたことは、私は一度もない。
狂乱の迷路を抜けた先には、
私が立ち入れなかった世界がある。
そこは私が踏み込んでも良い世界だったのに、
お前は私に、そこに立ち入ることを禁じた。
なんの権限があって?
お前にそんな権限は、最初から無いのだ。
私が持っているものを、おまえが踏みにじって奪い、おまえのものだと嘯いて見せびらかし、無断で使っていたおまえが、
私に指図する権利など、ただの一つも最初から無いのだ。
吊るし人は嗤う。ここは良い世界だと。
私は足元に絡まりつく生ぬるい足枷をようやく外した。
ぬめり蠢く足枷を踏み砕いて外した。
ここは私が自由に生きる世界だ。
責任が伴っても、
それは私が自由に生きる世界だ。
私はこの世界の後始末をしなければならぬ。
この均衡を崩しているのは、おまえの存在だ。
アンバランスな、全てを持ち得ない、偏った歪な存在であるおまえが、
私の足枷でしかないおまえが、
全てを持ち得る可能性を持つ者の世界で、
ただひとり、浮いていた、歪な存在。
お前は還りたかったのだ。
おまえが消えた時は、何の感情も湧かなかった。
本当に何も湧かなかった。
ただ、私がおまえから受けた傷を癒さなきゃ、傷を癒さなきゃ辛い、と思うだけだった。
辛い経験も学びになるとか言うけれど、
おまえから与えられた経験からは、なんの学びも得られなかった。
何も得られるものがなかった。
ただただ、傷ついただけだった。
辛い傷の経験だけが残った。
私はそう感じている。
「動かないと何も変わらんよ」とずっと言われてきた。
私に何ができる?
私はただここにいて、私ができることを続けるのみ。
他に出来ることなどないと思って、今もずっとそうしている。
「動け」というのは、現実の事ではないのか。
だったら、私にできることは、もう少しある。
私はずっと真ん中に居て
私が本当に動ける日が来るのを
ずっと待っている
途方もない長い日になるかもしれない
耐えられない
私は待つのが嫌いでね
13年待った。
私が本当に待っているのは、本当は誰なのか、時々解らなくなりながら。
そちらに関しては、まだ少し、涙が出る。
今はただ、壊れた宝玉の割れ目からにじみ出る、
黒くただれたヘドロの毒を、
出し切って
出しきって
出しきって
傷を塞ぐだけ。
もう、最初からなかったことにして、この傷を忘れるの。
そう
おまえなど、最初から、存在しなかったのだ。
次回、乙女座新月。
稔りの時はやがて来る。